開業ドクター支援日記

クリニック開業の「残念な」事業計画によくみられる特徴とは?

2019.01.11
開業ドクター支援日記

医療・クリニックに強い税理士、開業ドクターの「伴走者」の松浦 薫です。

モットーは、「お客様が『一番永く、深く関わりたいと思う専門家』になること」

院長先生が理想とする、自分らしいクリニックを作って頂くために、頼りになる「伴走者」であることを目指してます。

※ちょっと(かなり!?)変わった詳しいプロフィールはこちら。10人中10人の院長先生に面白がっていただいています(涙)。

 

先生がたがクリニックを開業されるにあたって、ほとんど必ずと言っていいほど作成されるもの、それが「事業計画書」です。

主には、融資を受ける目的で金融機関に提出されるために作成されることが多く

私も開業前から関与させていただく場合は、作成をお手伝いすることもあります。

 

一方、開業後から関与させていただく場合には、あとから作成済の事業計画書を拝見することになるのですが、

これが結構な確率で、

 

うーん・・・残念。

 

といいたくなることが多く、開業前準備の難しさを改めて実感したりします。

(融資との兼ね合い、先生の想いの強さ、などなどそれぞれのケースでいろんなご事情があります)

 

ただ、私が思うに、本当に「残念な」のは、

「残念な」事業計画になっていることを、先生がご自身で認識されていないケースが結構ある

ことではないかと。

 

これって結構深刻で、

 

このとおりにやれば自分のクリニックがうまくいくはず。

 

と思っていた「このとおり」が、

 

 

「このとおりできない」もしくは「このとおりやるのは相当ハードルが高い」

 

ものだったら。

・・・うまくいくのは相当難しい、ですよね。

 

これから開業のために事業計画を作成される先生、いま事業計画を作成されている先生のために、

私が見てきた「残念な」事業計画の例をいくつかあげさせて頂ければと思います。

ご自身の事業計画が「残念な」ものにならないための、チェックリストとしてご覧頂ければと思います。

残念な例①:患者数の立ち上がりが異様に早い

先生がたが開業されるにあたって、「クリニックでこれだけの患者様に来院してほしい」という目標とする患者様数があると思います。

一般的には、「一日あたり患者様数」として目標を立てられることが多いかと思います。

その目標とする患者様数が、開業後どの程度で実現できるのか?

意外に見落とされがちなのですが、この論点はご収入(と、その先にある資金繰り)に直結しますので、とても大事。

「じゃあ、どれくらいなのか?」というと、クリニック様によって本当に様々で一概にはいえない、のですが、

 

開業1年(つまり2年目には)で、最終的な目標患者数が実現

 

という事業計画は、ある程度順調にいかれた場合の想定であり、

見方をかえると、「チャレンジング」な事業計画をたてている、というご認識をお持ちいただいてもよいのかな、と思います。

(もちろん、きっちり順調に推移されて、2年目には患者様数がこれ以上は増やせないところまでいかれる、という先生もいらっしゃいますが)

残念な例②:人件費の読みが甘い

クリニックの費用のなかで、大きなもの。一つは「地代家賃」(都内は特に)。

そしてもう一つは、なんといっても「人件費」、です。

例えば心療内科様でほぼ先生お一人でなさっている、というようなケースは別として、

一般的には、受付・事務の方、看護師さん、

場合によっては臨床検査技師さん、PTさんやOTさんなど、先生以外のスタッフさんが必要となってきます。

 

自分が考える診療には、どのくらいのスタッフが必要となってくるのか?

 

という問いにも、しっかりと思考を深めて頂く必要があるのかな、と思います。

 

そして、このスタッフさんの体制を考えるとき。

 

「人数」という量の側面だけでなく、「ご経験・スキル」といった質の側面も考えていただくことも必要かな、と思います。

 

当然ながら、同じ職種でも、ご経験年数やスキルによって給与水準は変わってきます。

現在ご勤務されている場所(病院の場合は特に)でご一緒に働いているスタッフの方と同じ「経験・スキル」を有するスタッフの方を採用したい、と思われた場合、どの程度の給与を提示する必要があるのか、冷静にご判断いただくことも必要です。

 

(ただ、もう一つの側面として、「経験・スキル」よりも「ポテンシャル」で採用したほうがうまくいく、という場合もありますので、

一概に「給与を提示して経験・スキルのあるスタッフを採用すればいい」と言えないのが難しいところです)

 

いずれにしても、繰り返しになりますが、「人件費」はクリニックの支出の大きな項目の一つ。

スタッフさんの体制のおひとり読みが違っていただけで、年間100万円単位で支出が変わってきます。

ぜひ、慎重にご検討いただければと思います。

一つの手としては、先に開業された先生に、

 

現在のスタッフの人数・スキルに満足しているか?満足している/満足していないとするとそれはなぜ?

 

と、ご相談いただいてもよいかもしれません。

開業されたほとんどの先生が、「スタッフの体制や、採用を含めた確保」には一程度ご苦労されていると思いますので。。。

残念な例③:諸経費のイメージがわいていない

「人件費」以外でもう一つ大きな支出である「地代家賃」。これは当然ながらあまり事業計画とずれることは多くないと思います。

事業計画作成時には物件が決まっているケース、確定していなくても、「この地域でこのくらいのスペースで」という目安があればある程度は予想がつくからです。

一方、その他の経費については、「控えめな数字」を見ることが多い気がします。

 

クリニックを運営するにあたっては、本当にいろんな経費がかかってきます。

スタッフの皆さんが使う消耗品や制服、クリーニングや産業廃棄などの外注、事業にかかってくる税金、、、などなど。

 

ただ、開業前にすべての経費を想定するのは難しいですし、あくまで「全体でどれくらい」という金額を把握すればいいだけですので、

こちらも、さきほどの例と同じく、先に開業された先生に聞いてみていただけるとよいかもしれません。

その場合、実際に開業されている先生がたも一つ一つの細かい経費を把握されておられるわけではないので、

 

薬の仕入れや検査代以外の経費って月でどれくらいかかるもんでしょうか?

 

といったようなご質問をしていただけるとよいのではないかな、と思います。

もしくは、もっとお聞きいただけるようなら

 

損益計算書の販売管理費って月どれくらいですか?

 

というのが一番ダイレクトで正確なのですが(笑)。

残念な例④:先生の「生活費」の想定がゆるい

 

あとは、「生活費」です。

開業にあたって作成する事業計画では、シンプルに申し上げると、

 

クリニックのご収入から、かかる経費や税金、借入返済を除いた残りの「キャッシュ」がどのくらいか

 

という数字を作成していきます。

この残りの「キャッシュ」が、すなわち、先生個人の生活費、なのですが、

拝見していると、この数字が、「うーん・・・。」というケースが多いです。

 

正直申し上げると、事業計画を作成する側も、「生活費どれくらい必要ですか?」と根ほり葉ほりお聞きするのはためらわれる、

というところがあるのですが、開業によって先生が求める生活費が得られるかどうか、は大事な論点です。

 

私がよくお聞きする「問いかけ」をこちらに挙げてみました。自問自答してみていただけると、

今作成している事業計画の「生活費」が適正かどうか、が見えてくるかもしれません。

  • 今、給与の手取りは月額おいくらですか?そのうち、貯蓄や投資にはどれくらい回されてますか?(=残りが必要な生活費)
  • 開業してXXヶ月は、その手取りに届かないので、毎月XX万円不足する形になります。合計でXXX万円ほどの備えが必要になりますが?

 

 

などなど。まだ挙げられそうですが、一旦この辺で。

(余談)開業後に事業計画を見直してますか?

あとは、すでに開業された先生にとっても、開業時に作成された事業計画はやっぱり大事です。

先生の中には、

 

なんか資金繰りがうまく回らない・・・

開業してもうX年だけど、全然キャッシュがたまってない・・・

 

と感じられる先生もいらっしゃるかもしれません。

その場合は、ぜひ開業時に作成された事業計画を取り出してみて、振り返ってみていただきたい、と思います。

 

そこには、開業時に、先生が「こうしたい」「こうすれば成功する」と思われていた理想が数字として表現されているはず。

 

まずは、その「理想と現実とギャップ」に向き合うことが、大事です。

 

あ、計画したより費用が多かった。

あ、計画したより患者様がきていない。

あ、計画したより患者様の単価が低い。

 

などなど、きっと「次に何をしたらいいのか?」のヒントが見えてくるはず、です。

 

【ひとりごと】

明治神宮。年始におまいりすると大変なことになるので、毎年年末に少し早めの「初詣」(?)をしています。

本年も、関わらせて頂くお客様、仲間、家族、みんなにとって、よい年となりますように。