税金・節税

アルバイトドクターの収入は「給与」なのか「事業」なのか

2018.11.25
税金・節税

今月、開業をお考えの先生方に向けたセミナーでお話をさせていただきました。

「開業に向けた税務・労務の基礎知識」

・ 費用の経費処理は、開業前から?開業後から

・どういう費用を経費にできるの?経費処理する場合の注意点!

・開業資金を親から借りた場合の注意点は?

などなど。

セミナー後、個別に頂戴した質問のなかに、

 

「開業準備中なので、いくつかのクリニックでアルバイトをしているが、これを給与所得ではなく、事業所得にできないか?」

 

というご質問がありました。よく頂くご質問です。

というのも、セミナーでもお話させて頂きましたが、

 

 

同じ収入を得られても、それが「給与」なのか「事業のご収入」なのかによって、かかってくる税金が大きく変わってくる可能性がある

 

からなんですね。

どういうことかというと、

 

これから開業される先生は、現在どちらかの病院でご勤務されていらっしゃる先生が多いかと思います。

この勤務されている先生方のご収入は、

勤務先からの「給与」という形になるのですが、この給与収入に対して、何が所得になるかといいますと、

「給与収入」から、「給与所得控除」をひいたもの=「給与所得」になります。

で、この「給与所得控除」は、給与収入から自動的に金額が決まってしまうので、

 

「給与」で収入を得られている場合には、所得も自動的に決まってしまうんですね。

そこには、「節税」、という概念がないと考えていただいていいと思います。

(もちろんふるさと納税、などはありますが、それはまた別の話)

 

一方、「事業のご収入」はどうなるか、といいますと、

(開業された先生がたのご収入は、この「事業のご収入」にあたります。

但し、保健所等で行う検診などの市区町村の保険事業等、一部は給与所得となるものがあります)

給与と違って、「事業収入から経費をひいたものが所得」になりますので、

同じご収入でも経費の金額によって所得が変わってくるんですね。

つまり経費が多ければ多いほど、その分所得も圧縮されて税金が減ってきます。

ですので、せっかく開業されて、ご自身で事業を行って頂くのであれば、

ぜひ、経費となるものは経費として使っていただき、税金を必要以上に払うことがないようにしていただきたいと思います。

 

そして、おそらくご質問を頂いた先生も、現在のご収入に対して経費を計上できないか?という意図でご質問頂いたのだと思います。

で、そのご質問の、

 

「開業準備中なので、いくつかのクリニックでアルバイトをしているが、これを給与所得ではなく、事業所得にできないか?」

 

というご質問について、ですが、

 

少し前の「理事の副業にかかる税金は?」でも書きましたが、

その収入が「事業所得」の「事業」に該当するかどうか(もしくは「給与」に該当するかどうか)は、

その「実態」に応じて判断することになります。

 

じゃあ、その「実態」って何で判断するか、ということなのですが、

平成24年、と少し前の話になりますが、

東京地裁で納税者であるドクターと税務当局が争った裁判の判決が参考になりますので、ご紹介できればと思います。

 

どういう裁判かというと、

 

 

・ 麻酔科ドクターである先生が、

・ 複数の病院との間で、手術中の麻酔管理等を業務内容とする契約を締結

・ その各病院からの収入を「事業所得」として申告したところ、

・ 税務当局から、その所得が「給与所得」として指摘された

 

という事例です。

 

結論からいうと、こちらの所得は「給与所得」という判決となりました。

 

まず、前提として、「事業所得」と「給与所得」のそれぞれの要件は下記と理解されています。

 

①「事業所得」とは、

・   自己の計算と危険において

・   独立して反復継続して営まれる業務から生ずるもの

②「給与所得」とは、

・ 自己と計算と危険によらず、

・ 使用者の指揮命令、空間的・時間的拘束に服して提供した労務対価

③「事業所得」と「給与所得」のどちらに該当するのか

・ その経済活動で変動し得る収益及び費用が誰に帰属するか

・ 費用が収益を上回る場合のリスクを誰が負担するか

・ 経済活動が指揮命令、空間的・時間的拘束を受けておこわわれるかという点を

総合勘案して個別判断すべきである

 

そのうえで、今回のケースは、下記のような「実態」を要件にあてはめて「給与所得」として判断されています。

・ ドクターの得る収入が定額であった

・ 各病院が麻酔業務の費用を負担していた

・ 手術に係る場所・予定時間等は他律的に決定されている

(つまり、収入の変動はなく、費用も自己が支出していないため、自己の危険と計算において、とは言い難いという理解)

加えて、

・ 納税者の勤務時間が各病院の派遣医出勤簿で管理されていた

(つまり、空間的・時間的拘束も受けていた、という理解)

 

ことから、今回のケースは、「給与所得」として判断されたという形になります。

 

このように、「アルバイトだから事業ではなく給与」という単純な判断ではないのですが、

判断の根拠となった上記の条件は、ほぼアルバイトされていているドクターの要件にあてはまるものだと思います。

そのため、

 

「開業準備中なので、いくつかのクリニックでアルバイトをしているが、これを給与所得ではなく、事業所得にできないか?」

 

というご質問については、「通常、給与所得となるケースが多くなる」とお答えするようにしています。

そのうえで、収入やご勤務の実態などをお聞きして、個別に判断させていただきますね。

 

(ひとりごと)

先日、サントリーホールに日本フィルの「名曲コンサート」を聞きに行ってきました。

ラフマニノフやムソルグスキーの「ロシアンプログラム」。

来月も同じサントリーホールで。「第九」。・・・年末です!